空中散歩

ふわふわと空中を歩くように、好きなドラマや映画、アーティストなどについて書いています。

ミュージカル黒執事「豪華客船編」 感想

観劇からひと月以上経ちますが、ネタばれのない程度の感想を少し書きたいと思います。
 
1月末にミュージカル黒執事(以降、生執事)の過去二作「地に燃えるリコリス2015」「NOAH’S ARK CIRCUS」(サーカス編)のDVDを見た時点で、最新作「Tango on the Campania」(豪華客船編)の公演の半分以上が終了していました。

DVDの発売はすでに決定し予約も始まっていたのですぐに予約。
6月末の発売日までのんびり待つつもりでしたが、ライブビューイング(ライビュ)があるとのことで、それには行ってみようと思いました。
ライビュを楽しみに待っていたのですが、よく考えてみるとここは福岡、最終公演地は福岡県久留米市。県内なら行けるんじゃ・・・と思い、まずは久留米市への交通手段を調べたところ、電車で約三十分。
普通に考えればかなり近いのですが、出不精で乗り物酔いの激しい私にとっては、ちょっとどうしようかと迷う遠出でした。

チケット状況を見ると一公演だけまだかろうじて残数があり、ここで古川さんの生の歌声を聞かなかったら次はいつ聞けるんだという思いで、チケットを購入。

観劇当日。寒さが少し緩んで小雨の降る中の久留米行き。
まだ新しい立派な劇場で、三階席でしたが前の人の頭で舞台が見えないということのない座席の作りで、端の席でしたが舞台全体が見渡せました。

アバハンの登場から期待が高まりドキドキする中、カンパニア号への乗船シーンでの綺麗にそろった迫力あるコーラスと、キャストの歌の第一声、ロナルド・ノックス役の味方良介さんの「順風満帆、前途洋々」が美しく響いて「あ、この舞台レベル高い」と感じました。

その後、アバハン、リジーの歌の後、セバスチャン役の古川さんでしたが、これが一年前の「サーカス編」のDVDと全然違いました。
声量もすごいし、歌い方も違う。
歌声がとても柔らかく、「サーカス編」の時は高音の限界に向かって歌っていた感じがしたのが、今回、どこが限界なのか聞いていてわからないくらい高音も伸びやかでした。
 

装置が舞台上をひっきりなしに移動し、次々に変わる場面を違和感を感じさせずに転換。
アンサンブルの切れのいいダンスは一糸乱れず、二十名という人数が嘘のように、次々と役柄が変わり衣装が替わり、もっと大勢いるように感じるほど。ゾンビの動きやダンスは、人間とは違う動きにリアルな怖さが出ていてゾクゾクしました。
テンポ良く場面が変わっていき、原作での見所が次々に再現されていくので飽きることはなく、舞台からは全く目が離せませんでした。

セバスチャン、葬儀屋、グレル、ロナルドのアクションシーンも迫力たっぷりで、葬儀屋の武器が卒塔婆からデスサイズに変わる場面も自然でした。というか、一瞬目を離した隙に変わっていて驚きました。
シエルとセバスチャンがフロアから落下して互いに手を伸ばす場面の演出も、「そうきたか!」と心の中で手を打ちました。
現実の舞台では絶対に再現は無理だろうと思ったシーンでしたが、プロジェクションマッピングや動画などの最新技術を使わず、敢えて古典的手法を使って実際のキャストが演じる演出は見事でした。

音楽も重厚感があり、歌もドラマチックで芝居を盛り上げましたが、「カンパニ~ア カンパ~ニア」を繰り返すコーラス曲は覚えやすい旋律で、手の振り付けとともに視覚聴覚に残りやすく、この舞台のテーマにふさわしいものでした。
セバスチャンが「嗚呼~嗚呼~」と妖しく歌う曲も、回想シーン、戦闘シーンを盛り上げ、耳から離れないほど印象的な曲です。

グレル、ロナルド、リジー、ドルイット子爵の歌も物語の進行を促しながら原作に忠実で、皆さん歌が上手く「リコリス」「サーカス編」と違って不安要素が全くなく、歌に集中できました。
 
まだ若いリジー役の岡崎百々子ちゃんは歌も演技もリジーそのもの。可愛らしさと強さを併せ持った素敵なリジーでした。
グレル役の植原卓也さんは、舞台上ずっと内股で演技されていて、女性っぽさを出しながらもアクションを含めたグレルの格好良さもあり、歌も前よりも上手くなられてました。バックステージでもグレルの扮装の時は、徹底してグレルとして振る舞っていらっしゃいましたね。安定感抜群でした。
ロナルド役の味方良介さんは、どこから見ても原作のロナルドで、声がよく響いて、出演されている場面を「見せる」のが上手な方だという印象を受けました。他のお芝居も見てみたいと思わせてくれた俳優さんです。
ドルイット子爵役の佐々木喜英さんは、登場しただけで舞台の空気を一変させる、美しい変態っぷりを遺憾なく発揮されていました。気持ち悪くて美しい、けれどどこか抜けていてかわいいところのあるドルイット子爵の存在は、重苦しいストーリーの中で異彩を放って、観客を巻き込んで舞台を盛り上げるまさにエンターテイナーでした。
今回はドルイット子爵の曲であり、振りつけがかわいいカイザーダンス(?)をセバスチャンやシエル、グレル、ロナルドなどがまじめな顔で踊るシーンは楽しい見所でした。
シエル役の内川蓮生くんは、前回の「サーカス編」からとても成長していて、立派な伯爵になっていてシエルの決意や懸命さがよく表現されていました。声もきれいで歌も上手かったです。セバスチャンと契約したばかりの頃、セバスチャンが舌打ちした時の、セバスを見上げる表情が秀逸でした。
フランシス役の秋園美緒さん、歌声も美しく凜々しくて格好いい公爵夫人役がお似合いでしたが、カーテンコールでの挨拶では可愛らしい方でびっくりしました。
ミッドフォード侯爵役の那須幸蔵さん、厳格な見た目とは裏腹にかわいい物が好きな軽みのある性格と、英国騎士団長としての貫禄の対比が素晴らしかったです。
葬儀屋役の和泉宗兵さん、もともと目を隠しているので声での表現と演技力で存在感のある方ですが、今回は大鎌を振りかざしてのアクションもありますます魅力的でした。
エドワード役の内海啓貴さん。若くて真っ直ぐで、シエルに対してちょっとだけ素直じゃないエドワードを好演されていました。
スネーク役の原嶋元久さん、あくまでも静かでヘビの方が主役だという姿勢を貫いたことで、かえって存在感がありました。
リアン役の河合龍之介さん、さわやかで素直な健康オタクなのに、ちょっと暑苦しくて危機感の薄いリアンを、最後までちょっとおかしみのある存在として力一杯演じられて、見ていて楽しかったです。
アバーライン役の高木俊さんとハンクス役の寺山武志さん。DVDで初めて見たときには、芝居の出来る芸人さんかと思いました。役者さんだと知って、芸達者ぶりにびっくりしました。今回生でアバハンを見られて嬉しかったです。生執事にはなくてはならない存在ですね。

そしてセバスチャン役の古川雄大さん。歌が本当に素晴らしかったです。最初に思ったように、歌声が柔らかく声の表現が自在でしたし、高音部の伸びがとても美しかったです。
セバスチャンは感情表現の少ない役ですが、今回は契約直後のシーンでいろいろな表情を見せてくれました。
元々、古川さんは目の動き、目線の動きでの感情表現がとても上手い方ですが、今回はそういうシーンが多く見応えがありました。
シエルに対して「クソガキっ」と毒づいた時のセリフと表情が、普段のクールさとの対比で印象的でした。
今回の古川さんの演じるセバスチャンは、悪魔が人間のこどもに忠実に従っているという、怖さと妖しさが存分に発揮されていたと思います。

初めて生執事を見て、原作に忠実でありながら、音楽や俳優という現実の熱が加わることで、原作とはまた別の単独でも素晴らしい舞台になったと思います。

劇場での観劇後、千秋楽には映画館でライビュを見て、その後ディレイ配信でも見て、1週間近くは生執事「豪華客船編」の世界に浸りきって過ごしました。
その後も頭の中で「カンパ~ニア、カンパ~ニア」と「嗚呼~嗚呼~」という歌声が聞こえる気がします。
誰もが手を抜かずに最高の仕事をしたのではないかと思える作品で、2.5次元だとかミュージカルだとかは関係なく、エンターテインメントとして最高の舞台でした。
この後、生執事ロスと言われる状態に陥ったのは言うまでもありません(笑)
 
 
#黒執事 #生執事 #古川雄大